認知症になってしまうと、遺言を残すなどの相続対策をしていても、本人が望んでいたかたちと違うかたちになってしまう可能性があります。

では、認知症になる前にできることはないのでしょうか。

この点、近年注目されているのが、民事信託(特に信頼できる家族に信託するものは家族信託※と呼ばれています)です。
(※家族信託は一般社団法人家族信託普及協会の商標登録です)
2007年9月に信託法が改正され、それまで信託会社や信託銀行が営業として行う信託しか認められなかったものが、営業として行わないかたちでの信託が認められました。これが民事信託です。

民事信託(家族信託)の仕組みは、
①委託者(=財産管理を託す人)
②受託者(=託された財産を管理・運用・処分する人)
③受益者(=託された財産から利益を受ける人)
の三者間の契約によります。
ここで、①委託者=③受益者とし、②受託者に財産を信託し、名義を形式的に移します。
(①≠③になってしまいますと贈与税がかかってしまいます)
これによって、①委託者(=③受益者)が認知症になってしまっても、財産は②受託者名義ですので、管理・運用・処分ができるのです。つまり成年後見人制度と異なり、②受託者は、家庭裁判所の介在なく、管理・運用・処分が可能となるのです。
委託契約ですので解除もできますし、何より、自分が信頼できると考えた人を受託者(多くの場合が家族)にできることが、本人にとっても家族にとっても良いことだといえます。

その後、①委託者(③受益者)が亡くなってしまった場合、信託契約を終了することもできますし、③受益者の第二代目以降を登記しておけば、継続することができます。この第2、第3の受益者を決めておける点が民事信託の特に優れたところです。
民事信託(家族信託)も当然万能ではありませんが、遺言と組み合わせれば、本人の意思が相当反映された財産の継承ができると考えられています。

本人が元気なうちに、特に法定相続人を中心に家族で話し合い、民事信託契約を結ぶことも、経済的な認知症リスクを低減する一つの方法であると考えます。